トラック運転手の改善基準告知と36協定|健康確保措置は、36協定に書くだけでなく「実施」が大切です
更新日:10月6日

トラック運転手の改善基準告知と36協定
目次
出典
厚生労働省(令和8年8月19日報道発表)
令和8年9月1日、厚生労働省は労働基準監督署による36協定の指導方針を見直しました。
これまでの「時間外労働が月45時間を超えたら一律に削減を求める」指導から、「36協定に定めた健康確保措置が実際に実施されているかを重点的に確認する」運用へと変わっています。
令和8年8月19日、厚生労働省は36協定の特別条項に関する労働基準監督署の指導方針を見直すと発表し、同年9月1日より全国で実施されます。
今回の見直しにより、この一律指導は取りやめとなり、月45時間・年360時間などの法定上限規制はそのまま維持しつつ、加えて各事業場が36協定で定めた健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認する運用に変わりました。
この変更は、長時間労働が構造的な課題となっているトラック運送業にとって、特に重要な意味を持ちます。
本コラムでは、改善基準告示の基本から36協定の特則・健康確保措置の実務対応まで、運送会社の経営者・管理職が押さえておくべき内容を体系的に解説します。
1.トラック運転手の労働時間の実態と管理の背景
1.統計から見る年間労働時間の現状
大型トラック運転手 :年間約2,424時間
中小型トラック運転手:年間約2,340時間
全産業平均 :年間約2,112時間
全産業平均(他職種): 他職種と比べ年間200〜300時間以上(月換算で約20〜30時間)長く働いている実態背景から、2024年4月に時間外労働の上限規制(年960時間)および改正改善基準告示が適用開始されました 。
改善基準告示の見直しは平成9年以降行われていませんでしたが、自動車運転者の健康確保等の観点から令和4年12月に見直され、現在の基準(令和6年4月1日施行)となっています。
2.トラック運転手の労働時間の特殊性
勤務場所・時間が不規則:
工場や事務所と異なり、運転手の勤務は出発地から目的地まで広域にわたります。始業・終業の時刻が毎日異なり、深夜・早朝の運行も常態化しているため、管理者が労働時間をリアルタイムで把握しにくい構造的な問題があります。
「手待ち時間」が発生しやすい業務特性:
運転手は荷主・着荷主の都合に左右されやすく、荷積み・荷降ろしの順番待ちや荷主の作業遅延による待機が日常的に発生します。この時間は「自由に使える時間」ではなく、指示を待つ「拘束状態」であるため、労働時間として管理しなければなりません。
複数の事業者が関与する多重下請け構造:
元請け・下請け・実運送会社が複数介在するケースでは、実際に運転手を使用する会社と労働契約を結ぶ会社が異なる場合があり、労働時間の把握・管理責任の所在が曖昧になりやすいという問題があります。
3.労働時間が長くなる実務上の要因
「荷待ち時間」の扱い:
物流センター等での待機時間(手待ち時間)は、労働基準法および改善基準告示上、「労働時間(拘束時間)」に完全に含まれます。
休憩時間として処理することはできません。
「附帯業務」の記録漏れ:
荷物の積み降ろし、シート掛け、車両点検、洗車、日報作成なども全て労働時間です。記録から漏れると、労基法違反・改善基準告示オーバーの原因となります。
2.基本概念の定義:「拘束時間」と「休息期間」
1.改善基準告示とは
労働基準法第36条第6項等の規定に基づき、自動車運転者の過労防止と健康確保を目的に、労働時間等の基準を定めた厚生労働大臣告示です。
労基法本体の規定を補完する「特則」としての性質を持ちます。
2.「拘束時間」の定義
始業から終業まで、運転手が事業主の管理下に置かれているすべての時間を指します。
計算式:拘束時間 = 労働時間 + 休憩時間 + 待機時間(手待ち時間)
3.「休息期間」の定義
勤務終了後、次の勤務が開始されるまでの間で、いっさいの労働義務から解放された「完全に自由な時間(睡眠やプライベートの時間)」を指します。
計算式:1日(24時間)= 拘束時間 + 休息期間
3.改善基準告示の主要内容(2024年4月改正基準)
1.拘束時間の制限
区分 | 原則的な基準 | 例外(労使協定あり等) |
1日の拘束時間 | 13時間以内 | 最大15時間まで (※14時間超は週2回以内) |
1か月の拘束時間 | 284時間以内 | 最大310時間以内
(※年6か月まで) |
1年の拘束時間 | 3,300時間以内 | 最大3,400時間以内 |
休息期間 | 継続11時間以上(努力義務) | 最低9時間を下回らないこと |
連続運転時間 | 4時間以内 | 4時間以内(または直後)に合計30分以上の中断が必要 |
2.休息期間の確保
勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回ってはなりません。
3.運転時間等の制限
1日:2日平均で1日9時間以内
週:2週間平均で週44時間以内
連続運転時間:4時間以内とし、4時間経過時またはその手前で合計30分以上(1回10分以上で分割可)の運転中断(休憩等)が必要です。
4.36協定の特則と「健康確保措置」の義務:監督指導見直しで何が変わるか
1.36協定(特別条項)におけるトラック運転手の特則
2024(令和6)年4月1日から、トラック運転手(自動車運転業務)に対しても時間外労働の上限規制が適用されました。ただし、一般の労働者とは異なり、業務の特殊性を考慮した独自の「特則(例外規定)」が設けられています。
一般労働者とトラック運転手の比較
規制項目 | 一般労働者(通常の会社) | トラック運転手(特則) |
年間の時間外労働上限 | 年 720時間 以内 (※休日労働は含まない) | 年 960時間 以内 (※休日労働は含まない) |
単月の時間外+休日労働 | 月 100時間未満 | 適用なし (改善基準告示で管理) |
複数月平均の時間外+休日労働 | 2〜6か月平均 80時間以内 | 適用なし (改善基準告示で管理) |
特別条項の発動回数 | 年 6回(6か月) まで | 回数制限なし |
2.トラック運転手における「特則」の詳細
年間960時間の上限規制と休日労働の扱い:
特別条項を発動する場合であっても、年間の時間外労働(残業)は「960時間」が絶対的な上限となります。
この960時間には「休日労働」の時間数は含まれません。
これは一般労働者の上限「720時間」に休日労働が含まれないのと同様の仕組みですが、トラック運転手はベースの上限が240時間高く設定されています。
単月・複数月の過労死ライン規制の除外:
一般労働者に義務付けられている「単月100時間未満」「複数月平均80時間以内」という、休日労働を含めた過労死ラインに基づく総量規制は、トラック運転手には法的な適用がありません。
発動回数の制限なし: 一般労働者は「年6回まで」しか原則(月45時間)を超える残業ができませんが、トラック運転手には回数の制限がありません。
年間960時間の範囲内であれば、毎月特別条項を適用することが可能です。
実質的な抑制機能(改善基準告示): トラック運転手に「単月100時間」等の法的規制がないのは、業務の予測困難性を考慮したものです。
しかし、無制限に働けるわけではなく、厚生労働大臣告示である「改善基準告示」が実質的なブレーキとして機能します。
後述の通り、拘束時間(最大月310時間)と休息期間(継続9時間以上)の制限を遵守すると、時間外労働は結果として過労死ライン付近に抑制される構造となっています。
3.2024(令和6)年4月からの法改正と連動
2024年4月からは、上記の「労働基準法上の年960時間規制」のスタートと同時に、厚生労働大臣告示である「改正改善基準告示」の適用も開始されています。
二重のブレーキによる管理: 労基法上は「単月100時間」などの規制はありませんが、改善基準告示によって「1か月の拘束時間は最大310時間まで」という厳しい別の制限がかかります。
実務上の注意: この拘束時間の制限(月310時間)から逆算すると、時間外労働は実質的に月80〜100時間程度が限界となるため、36協定を締結・運用する際は、改善基準告示と矛盾しないよう二重の視点で管理を行う必要があります。
5.令和8年9月の監督指導見直し:何が変わり、何が変わらないか
変わること:時間外労働の時間数だけに着目した月45時間超への一律削減指導が取りやめとなり、36協定に定めた健康確保措置の実施状況を重点的に確認する運用に変わりました。
変わらないこと:月45時間・年360時間などの法定上限規制は一切変わりません。今回の見直しは法改正ではなく、指導運用の変更です。長時間労働を容認するものではありません。
重大・悪質な事案:過重労働による健康障害が生じるおそれが高い場合には、引き続き必要な指導が行われます。健康確保措置を実施していない場合も、指導・是正勧告の対象となります。
6.健康確保措置の義務
特別条項を適用して一定の労働時間を超える運転手に対し、会社は以下のいずれかの措置を協定に明記し、実際に実施しなければなりません。
医師による面接指導の実施(申出後概ね1か月以内・結果記録は原則5年間保存)
深夜業(22時〜翌5時)の回数制限(例:月4回以内など、労使で具体的な回数を設定)
勤務間インターバルの確保(終業から次の始業まで一定の休息時間を設ける)
代償休日・特別休暇の付与、または産業医による保健指導の実施
注意:協定届に具体的にどの措置を行うかを明記し、実施記録を保存することが必要です。措置を実施していない場合、令和8年9月以降の監督指導において重点的に確認・指導される対象となります。
7.労務管理上の重要注意事項および運用特例
1.「2日平均」での運転時間管理
「2日平均で1日9時間以内」の計算は、「特定の日とその前日」「特定の日とその翌日」のどちらの組み合わせでも9時間を超えてはなりません。
日またぎの厳格な運行管理が必要です。
2.「休日労働」の厳格な回数制限
トラック運転手の休日労働は改善基準告示により「2週間(14日間)に1回」までしか認められません。
3.労働時間の「客観的な把握」の徹底
日報(自己申告)だけに頼らず、デジタルタコグラフ(デジタコ)の走行データ、GPS位置情報、ETC履歴など客観的な記録と突き合わせて実態を把握することが必要です。
令和8年9月以降の監督指導では、健康確保措置の実施記録とあわせて、こうした客観的な労働時間の記録も確認対象となります。
4.「荷主勧告制度」への対応
長時間労働の原因が荷主側にある場合、運送会社だけでなく荷主に対しても行政から「勧告」や「実名公表」が行われる制度があります。
荷待ち時間等のデータを記録・蓄積し、荷主との交渉材料として活用することが重要です。
運用特例(やむを得ない場合
休息期間の分割特例:業務上やむを得ない場合に限り、「1回継続4時間以上、合計10時間以上」などの厳格な要件を満たす場合のみ分割が認められます。
予期し得ない事象の特例:事故・災害・急な道路閉鎖など予測できない事由で拘束時間が延びた場合は、その対応時間を全体の拘束時間から除外できます(客観的な記録と保存が必要)。
8.まとめ:自社の対応状況を確認するチェックリスト
令和8年9月からの監督指導見直しにより、36協定の健康確保措置が「形式的な記載」にとどまっていないかが、これまで以上に厳しく確認されます。
以下のチェックリストで自社の対応状況を点検してください。
36協定に「健康確保措置」が具体的に記載されているか
協定に記載した措置を実際に実施し、記録を残しているか(健康確保措置の記録は当分の間3年間保存)
1日・1か月・1年の拘束時間が改善基準告示の上限内に収まっているか
休息期間が継続9時間以上(努力義務:11時間以上)確保されているか
連続運転時間が4時間以内に管理されているか
休日労働が2週間に1回以内に収まっているか
デジタコ・GPS等の客観的記録と日報を突き合わせて管理しているか
荷待ち時間を拘束時間として正確に記録・管理しているか
自社の規程類や運用実態が法令・告示に適合しているかご不安な場合は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
キーワード 改善基準告知 36協定
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