シフト制の基本と注意点|経営者・人事担当者が知っておくべき労務管理のポイント

飲食・小売・介護など多くの業種で定着しているシフト制。便利な反面、「急にシフトを削られた」「希望を無視されてシフトを入れられた」といった労使トラブルが増えています。この「いわゆるシフト制について」は、令和4年1月に留意事項を作成し、令和8年6月にも改正を行いました。
さらに社会保険・扶養の制度改正も相次いでおり、従来の運用のままでは法令違反や未払い賃金リスクが高まっています。
出典:
厚生労働省「いわゆる『シフト制』について」:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22954.html
厚生労働省「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(令和8年6月改正):https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000870905.pdf
厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」:https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/
日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html
厚生労働省「労働時間・休日」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/index.html
日本年金機構「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」(令和8年4月1日施行):https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/jigyosho/2026/202605/0501.html
1.労働条件の明示とシフト契約で決めておくべきこと
雇用契約書(労働条件通知書)の書き方
シフト制の雇用契約では、労働条件の書き方に注意が必要です。
雇用契約書や労働条件通知書に「シフトによる」とだけ書くのは不十分です。
労働契約を結ぶ時点で始業・終業時刻が決まっている日がある場合は、その内容を明記する必要があります。
または、原則となる始業・終業時刻を記載したうえで、一定期間分のシフト表をあわせて交付する 方法もあります。
たとえば、「始業9:00・終業18:00(シフトにより変動あり)」 といった形で原則の時間を示し、シフト表をあわせて交付するのは実務上よくある対応です。
また、休日についても、曜日が未確定であっても、休日の考え方をあらかじめ示しておくことが大切です。シフト制の契約では、あとから労働時間や休日をめぐって誤解が生じないように、できるだけ具体的に条件を示しておくことが重要です。
シフト作成・変更の手続きと注意点
シフト制では、シフトの作り方や変更のルールをあらかじめ決めておくことが大切です。
まず、シフトを作成する前に、労働者の希望を聞いておくことが望ましいです。あわせて、希望を出す期限も、たとえば「前月○日まで」 のように、就業規則などに明記しておくと安心です。
また、決定したシフトについても、いつ、どの方法で通知するのか を事前に定めておくことが重要です。たとえば、「毎月○日までに電子メールで通知する」 としておくと、労働者も予定を立てやすくなります。
一度確定したシフトを変更する場合は、労働条件の変更にあたることがあるため、会社と労働者双方の合意が必要になる場合があります。変更の期限や手続きについても、事前にルール化しておくとトラブルを防ぎやすくなります。
さらに、シフト期間が始まったあとに会社の都合で勤務をキャンセルしたり、勤務時間を短縮したりする場合は、使用者の責に帰すべき事由による休業 にあたることがあります。その場合は、平均賃金の60%以上の休業手当 を支払う必要があります。
シフト制では、「シフトは会社が自由に決められる」 という誤解がトラブルの原因になりやすいです。そのため、①希望を聞く期限、②シフトの通知期限・方法、③変更やキャンセルの手続きと期限 の3点は、雇用契約書や就業規則に明記しておくことが、紛争予防の第一歩です。
2.社会保険の加入要件とシフト表の書き方
所定労働時間は原則「雇用契約書・就業規則」で判断
シフト制で働いている労働者にとって、また会社側も社会保険について気になるところだと思います。
社会保険の加入要件となる「週の所定労働時間」は、就業規則や雇用契約書等に記載された内容で判断します。
労務コラム
シフト制の場合、実際の勤務時間がシフトで決まるため、雇用契約書への記載が加入判断の根拠となります。記載が曖昧だと、加入漏れや過剰加入のリスクが生じますので注意が必要です。週の「所定労働時間」とは、就業規則、雇用契約書等により、その者が通常の週に勤務すべき時間のことです。
加入要件の基本(2つの基準)
3/4基準(全企業共通):週の所定労働時間・月の所定労働日数がフルタイムの3/4以上 → 企業規模を問わず加入対象となります。
特定適用事業所の20時間基準(被保険者数51人以上の会社):
①週所定20時間以上
②学生でない
③所定内賃金月額8.8万円以上(2026年10月撤廃予定)
④2か月超の雇用見込み
の全要件を満たす場合に加入対象加入対象者は以下の要件を満たすパート・アルバイトなどの従業員です。
特定適用事業所の規模縮小スケジュール:
2026年10月:月額8.8万円以上の賃金要件を撤廃(週20時間以上の勤務者が対象へ)
2027年10月:被保険者数「36人以上」の企業へ拡大
2029年10月:被保険者数「21人以上」の企業へ拡大、および個人事業所の対象拡大
2032年10月:被保険者数「11人以上」の企業へ拡大
2035年10月:企業規模要件が完全に撤廃され、すべての企業が対象に。
3.シフト制における週所定労働時間の算定方法
週単位や周期で定まっている場合
雇用契約書に「週○時間」と明記 → その時間で判断することになります。
周期で決まっている場合は、周期中の1週間の平均で算定(例:4週サイクルなら4週合計÷4)し、所定労働時間は、就業規則や雇用契約書等で判断します。
週の所定労働時間が定まっていない場合
シフト制で働く方の社会保険加入を判断する際は、所定労働時間の考え方が重要です。
所定労働時間が短期的・周期的に変動する場合は、その変動期間の1週間平均 で判断します。また、所定労働時間が1か月単位で定められている場合は、月間労働時間を週当たりに換算して 判定します。たとえば、月80時間であれば、80時間を4.33で割ると約18.5時間となるため、週20時間未満として判断されます。
さらに、雇用契約書などに1週間の所定労働時間が定められていない場合や、シフト制で勤務時間が直前までわからない場合は、勤務実績に基づいて平均所定労働時間を算定 します。
なお、特定適用事業所では、所定労働時間が週20時間未満であっても、実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、今後もその状態が続く見込みがある場合 は、3か月目から加入対象となります。
具体例:シフト設定と社会保険加入の判断
例①【週20時間以上要件では対象外】月16日勤務・1日4時間シフト
→ 月64時間 ÷ 4.33 ≒ 週14.8時間
例②【加入対象】月20日勤務・1日5時間シフト
→ 月100時間 ÷ 4.33 ≒ 週23.1時間→ 週20時間以上のため、他の要件を満たせば加入対象(特定適用事業所の場合)
例③【通常の被保険者として加入対象】フルタイム週40時間の職場で週30時間勤務
→ フルタイムの3/4以上のため、原則として加入対象
シフト制の場合の重要な注意点
シフト制で働く方の被扶養者認定には、いくつか注意点があります。
まず、雇用契約書や労働条件通知書に「シフト制による」とだけ記載されている場合は、被扶養者認定ができません。
労働時間が明確でないと、年間収入の見込みを判断できないためです 。
被扶養者認定の新しい取扱いでは、原則として、労働条件通知書や雇用契約書などの内容をもとに見込年収を判断します。そのため、労働契約の内容がわかる書類に加えて、本人からの「給与収入のみである」旨の申立書が必要です。
一方で、契約期間が1年未満の場合や、シフト制などで労働時間の記載が不明確な場合は、労働契約内容から年間収入を判定できません。そのため、この新しい取扱いではなく、従来どおり給与明細書や課税(非課税)証明書などで判断します。
シフト制で働いている場合は、書類の記載内容によって判断が変わることがありますので、事前に確認しておくことが大切です。
扶養に入れるための雇用契約書の書き方
シフト制で働く方の配偶者などが被扶養者認定を受ける場合は、雇用契約書の記載内容がとても重要です。
たとえば、「勤務時間:シフト制による」 というだけの記載では、年間収入の見込みを判断できません。そのため、新しい取扱いでは被扶養者認定ができない場合があります。
一方で、「週15時間程度(月60時間)、時給1,200円」 のように、労働時間や賃金を具体的に記載しておくと、年間収入の見込みを算定しやすくなります。年間収入が130万円未満であれば、被扶養者認定を受けられる場合があります。
このように、シフト制で働く方が扶養に入る場合は、雇用契約書に週あたりの労働時間や賃金をできるだけ具体的に書いておくことが大切です。令和8年4月以降は、特に記載の明確さが重要になります。
まとめ:シフト制運用のチェックリスト
労働条件通知書に始業・終業時刻を具体的に明示(「シフトによる」のみはNG)
シフトの作成・変更・キャンセルのルールを就業規則または労働契約に明記
法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超える場合は36協定を締結・届出
年次有給休暇の取得を適切に認める(シフト確定後も拒否不可)
週の所定労働時間を正確に算定し、社会保険加入要件を定期的に確認する
扶養に入る従業員の雇用契約書に労働時間・賃金を具体的に記載する(令和8年4月以降)
シフト制の運用は、一見シンプルに見えて、実は多くの法令ルールが絡み合っています。「うちは今まで問題なかったから大丈夫」と思っていても、制度の改正により突然リスクが生じることもあります。制度設計や個別対応については、社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
キーワード シフト制 雇用契約書 社会保険加入
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