【令和8年度】最低賃金改定と企業が発効日までに準備したい実務対応

令和8年9月3日、厚生労働省は、全47都道府県の地域別最低賃金の改定額(答申)を取りまとめました。全国加重平均は、昨年度から56円引き上げられ、1,177円となっています。
また、この引上げ幅は、昭和53年度に目安制度が始まって以降、2番目に高い水準とされています。最低賃金の改定は毎年の重要テーマですが、今年は特に、企業側の実務対応が早めに求められそうです。
本コラムでは、令和8年度の最低賃金改定のポイントと、発効日までに確認しておきたい実務対応を、公的資料に基づいてわかりやすく整理します。
出典
令和8年度の最低賃金改定、まず押さえたいポイント
全国加重平均は1,177円
令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円となりました。昨年度の1,121円から56円引き上げられており、全体として賃金水準の見直しが進んでいます。
47都道府県すべてで引上げ
今回は、47都道府県すべてで最低賃金の引上げが行われました。引上げ額は54円から65円までと幅がありますが、全国的に底上げが進んでいることがわかります。
過去2番目の引上げ幅
全国加重平均56円の引上げは、昭和53年度に目安制度が始まって以降、2番目の高さです。物価や人件費の上昇が続く中で、企業にとっては賃金テーブルの確認がこれまで以上に重要になっています。
地域間格差は縮小傾向
最高額は1,280円、最低額は1,085円となり、その比率は84.8%です。昨年度の83.4%から改善しており、地域間格差は12年連続で縮小しています。
主な都道府県の改定額
答申額ベースでみると、主な都道府県の改定額は次のとおりです。
東京都:1,280円
神奈川県:1,279円
大阪府:1,231円
宮崎県:1,085円
※上記は答申額です。正式な金額・発効日は、都道府県労働局長の決定により確定します。必ず各都道府県労働局の最新情報をご確認ください。
発効日は都道府県ごとに異なります
最低賃金の新しい金額は、答申後すぐに適用されるわけではありません。都道府県労働局での異議申出に関する手続を経たうえで、都道府県労働局長の決定により、各都道府県の「発効日」から適用されます。
発効時期の概要
令和8年度の改定額は、令和8年10月1日から令和8年12月2日までの間に順次発効される予定です。
「全国一斉」ではない点に注意
地域別最低賃金は、都道府県ごとに審議・答申されるため、発効日も一律ではありません。たとえば、10月1日から適用される地域がある一方で、12月2日から適用される地域もあります。
複数の都道府県に事業所がある企業では、拠点ごとに発効日を整理しておくと安心です。本社と支社、工場が別の都道府県にある場合は、それぞれの発効日に合わせた準備が必要になります。
企業が発効日までにやっておきたい実務対応
1. 現行の賃金を洗い出す
まずは、全従業員の賃金を確認し、改定後の最低賃金を下回っていないかをチェックしましょう。パート・アルバイトだけでなく、派遣労働者を受け入れている場合も、実務上は確認しておくと安心です。
月給制や日給制の従業員については、時間額に換算して最低賃金と比較する必要があります。なお、最低賃金の比較対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。残業代や賞与、通勤手当などは、原則として含まれません。
2. 月給者の計算方法を確認する
月給制の従業員も、最低賃金は時間額で判断されます。
そのため、月給額を月平均所定労働時間数で割り、時間換算額が改定後の最低賃金以上になっているか確認しておきましょう。
また、発効日が給与計算期間の途中にある場合は、発効日前後で賃金単価が変わることがあります。給与計算期間を分けて処理する必要が生じることもあるため、給与計算ソフトの設定や締日・支払日の運用は、早めに見直しておくと安心です。
3. 固定残業代や手当の扱いを確認する
固定残業代や各種手当は、最低賃金の比較対象としてそのまま扱えるとは限りません。
制度設計や支給方法によって扱いが異なるため、必要に応じて個別に確認しましょう。
特に、固定残業代を含めた賃金設計をしている場合は、最低賃金を下回っていないかを丁寧に点検することが大切です。
4. 賃金規程・就業規則を見直す
賃金水準を見直した結果、賃金規程や就業規則の改定が必要になる場合があります。
ただし、最低賃金改定に合わせて必ずしも規程改訂が必要とは限らず、実際の賃金支給が改定後の最低賃金を上回っていれば、直ちに改訂を要しないケースもあります。
一方で、基本給や手当の金額、賃金体系、固定残業代の見直しを行う場合などは、賃金規程や就業規則の修正が必要になることがあります。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、変更後の就業規則について労働基準監督署への届出も必要です。
また、改定内容がある場合は、労働者にわかる形で周知しておくことが大切です。
最低賃金を下回った場合のリスク
最低賃金額を下回る賃金を支払った場合、差額の支払い義務が生じるほか、法令違反として行政指導や罰則の対象となる可能性があります。また、労働基準監督署による是正指導の対象となることもあります。
万が一、最低賃金を下回っていたことが判明した場合は、速やかに差額を支払い、賃金規程や運用の見直しを進めることが重要です。その意味でも、発効日前からの準備が欠かせません。
中小企業向け支援策「業務改善助成金」も活用を
最低賃金の引上げに対応する中小企業・小規模事業者を支援するため、厚生労働省では「業務改善助成金」を実施しています。業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った中小企業・小規模事業者に対し、その費用の一部を助成する制度です。
業務改善助成金の主なポイント
対象事業者
中小企業・小規模事業者であることが基本となり、みなし大企業は対象外です。あわせて、事業場内最低賃金が、申請事業場の所在地における地域別最低賃金額未満であることが要件とされています。
助成額
助成額は、引き上げ額や引き上げる労働者数、特例要件の該当状況などによって異なります。令和8年度の案内では、最大600万円とされていますが、適用条件により上限額は変わります。
助成率
助成率は、事業場内最低賃金の水準に応じて異なります。令和8年度の案内では、事業場内最低賃金が1,050円未満の場合は4/5、1,050円以上の場合は3/4とされています。
申請期間
令和8年度は、申請事業場に適用される地域別最低賃金の発効日の前日まで、または同年11月30日のいずれか早い日まで申請を受け付けるとされています。なお、具体的な締切日は事業場の所在地によって異なるため、必ず最新の案内で確認してください。
注意点
交付決定前に対象設備を導入した場合は、助成対象とならない場合があります。また、同一事業場の申請は年度内1回までとされています。申請前には、必ず最新の公募要領や案内資料をご確認ください。
まとめ:発効日までに確認しておきたい4つのこと
1. 自社の都道府県の発効日を確認する
発効日は都道府県ごとに異なります。各都道府県労働局の最新情報を確認しましょう。
2. 全従業員の時間給が改定後の最低賃金以上か確認する
月給・日給制の場合は、時間額に換算して比較することが必要です。残業代や通勤手当などは、原則として比較対象に含まれません。
3. 発効日をまたぐ給与計算の処理を確認する
月給者は、発効日前後で賃金単価が変わることがあります。給与計算システムの設定変更や、締日・支払日の運用を事前に見直しておきましょう。
4. 賃金を見直した場合は、規程改定と周知の要否を確認する
賃金規程や就業規則の改定が必要になる場合があります。一方で、実際の支給額が改定後の最低賃金を上回っており、制度上の変更もない場合には、直ちに改訂が不要なケースもあります。常時10人以上の事業場で就業規則を変更した場合は、労働基準監督署への届出も必要です。
毎年この時期になると、最低賃金に関する確認や対応が必要になります。自社でのチェックや運用に不安がある場合は、社労士などの専門家にご相談ください。
キーワード 最低賃金 業務改善助成金
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