育休復帰後の「配置転換」に潜む法的リスク ― 判例と法改正から学ぶ、トラブルを防ぐ復職対応

育休復帰後の「配置転換」に潜む法的リスク ― 判例と法改正から学ぶ、トラブルを防ぐ復職対応
目次
参考資料
厚生労働省
「育休から戻る社員がいるが、元の部署は人が足りているので、別の仕事をしてもらおう」。もしもこのように“空いている席を埋める”感覚で配置転換(配転)を考えるのは注意が必要です。
育児・介護休業法は、育児休業の申出や取得などを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁止しており、違反があれば、厚生労働大臣(権限の委任を受けた都道府県労働局長を含みます)による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合には、その旨が公表されることがあります。
さらに、育休復帰後の配置をめぐって、会社に損害賠償を命じた裁判例もあります。
「給与も等級も下げていないから問題ない」という考え方が、裁判所で通用しなかった例もあります。本稿では、判例と近年の法改正をもとに、育休復帰時の配転で押さえるべきポイントを解説します。
1.近年の育児・介護休業法改正の流れ
育児・介護休業法は、2021年以降、段階的に改正されています。主な内容は次のとおりです。
2021年1月:子の看護休暇・介護休暇を時間単位で取得できるようになりました。
2022年4月:育児休業を取得しやすい雇用環境の整備と、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者への個別の制度周知・取得意向の確認が義務化されました。有期雇用労働者の「引き続き雇用された期間が1年以上」という取得要件も撤廃されました。
2022年10月:産後パパ育休(出生時育児休業)が創設され、通常の育児休業も2回まで分割して取得できるようになりました。
2023年4月:従業員1,000人超の企業に、男性の育児休業等の取得状況の公表が義務付けられました。
2025年4月:「子の看護休暇」が「子の看護等休暇」となり、対象が小学校3年生修了までに拡大されました。残業免除(所定外労働の制限)の対象も小学校就学前の子を養育する労働者に拡大され、取得状況の公表義務は従業員300人超の企業に広がりました。
2025年10月:
3歳から小学校就学前の子を養育する労働者
①始業時刻等の変更
②テレワーク等(月10日以上)
③保育施設の設置運営等
④養育両立支援休暇(年10日以上)
⑤短時間勤務制度
のうち2つ以上を講じ、労働者がその中から1つを選んで利用できるようにすることが義務化されました。
あわせて、本人または配偶者の妊娠・出産等の申出時と、子が3歳になる前の適切な時期に、勤務時間帯や勤務地、業務量などについて労働者の意向を個別に聴き、配慮することも義務になりました。
公表義務を除き、これらは企業規模にかかわらず適用されます。「うちは中小企業だから関係ない」とはいえません。特に2025年10月からの「意向聴取・配慮」は、復職時の配置を
考えるうえで直接関係する改正です。
2.「不利益な取扱い」はどう判断されるのか
厚生労働省の指針は、育児休業後は「原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮すること」としています。
これは配慮を求めるものであり、原職以外への配置を一律に禁止するものではありません。
しかし、指針は禁止される不利益な取扱いの例として「不利益な配置の変更を行うこと」を挙げ、該当するかどうかは「配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情」を総合的に比較考量して判断するとしています。
賃金だけでなく、「将来に及ぼす影響」も判断材料になる点が重要です。
さらに厚生労働省は、後述の最高裁判決を踏まえ、育休等を「契機として」行われた不利益な取扱いは、原則として法違反になるという解釈を示しています。
「契機として」とは、原則として育休等の終了から1年以内に行われた場合をいい、人事異動のように時期が決まっている措置は、終了後の最初のタイミングまでに行われた場合も含みます。
例外は次の2つです。
業務上の必要性から不利益な取扱いをせざるを得ず、その必要性が不利益な影響を上回ると認められる特段の事情がある場合
労働者が同意しており、有利な影響が不利な影響を上回り、事業主から適切な説明がされているなど、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的に存在する場合
つまり、復職直後の配転で本人に不利益が生じる場合、会社の側が「特段の事情」か「合理的な理由のある同意」を説明できなければならない、ということです。
3.押さえておきたい2つの裁判例
事例①:
広島中央保健生活協同組合事件
(最高裁第一小法廷 平成26年10月23日判決)
副主任を務めていた女性の理学療法士が、妊娠中に軽易な業務への転換を求めたところ副主任を免じられ、産休・育休から復帰した後も副主任に戻されなかった事案です。
最高裁は、妊娠中の軽易な業務への転換を契機とする降格は、原則として男女雇用機会均等法9条3項が禁止する取扱いに当たると判断しました。
例外は、
①本人が自由な意思に基づいて降格を承諾したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合
②降格させずに軽易な業務へ転換させると業務運営に支障があり、法の趣旨・目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在する場合に限られるとしています。
差戻し後の広島高裁(平成27年11月17日判決)は、降格を違法・無効とし、慰謝料100万円などの支払いを命じました。
この判決は妊娠中の降格に関するものですが、育休復帰時の配置を考えるうえでも基本となる判断です。
教訓:本人が「承諾した」という形だけでは足りません。その承諾が自由な意思に基づくものかどうかが、客観的な事情から判断されます。
事例②:
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル事件(東京高裁 令和5年4月27日判決)
部下37名を率いるチームリーダーだった女性が、2015年7月から2016年7月まで産休・育休を取得しました。休業中に組織変更でチームはなくなり、復職後は新設部門のアカウントマネージャーに配置されました。
職務等級(バンド)と基本給は維持されましたが、部下はおらず、業務の中心は電話営業でした。
第一審(東京地裁 令和元年11月13日判決)は、等級や基本給が下がっていないことなどから、会社の措置は不利益な取扱いに当たらないとしました。しかし東京高裁はこれを覆し、会社に220万円の損害賠償を命じました。
東京高裁は、チームの消滅自体は業務上の必要によるもので違法ではないとしました。
そのうえで、復職後に部下を一人もつけずに電話営業中心の業務に就かせたことは、等級や基本給が変わらなくても、業務の質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響しうるものであるとして、均等法9条3項・育介法10条の不利益な取扱いに当たり、人事権の濫用・公序良俗違反にも当たると判断しました。部下のいない業務に就かせた結果としてリーダーシップ評価を最低としたことも、違法とされています。
教訓:組織変更そのものに理由があっても、復職者をどのポジションに就けるかは別に検討が必要です。「等級も給与も下げていない」だけでは安全とはいえず、業務の質や本人のキャリアへの影響まで含めて検討する必要があります。
4.「育休中に働けた」ことと復職後の配置は別問題
産後パパ育休では、労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業できます。
一方、通常の育児休業は休業中に就労することが想定されておらず、労使の話合いにより、子の養育をする必要がない期間に限って一時的・臨時的に就労できるにとどまります。
いずれの場合も、事業主の一方的な指示で働かせることはできません。
「休業中に少し働けたのだから、復職後の配慮は不要だ」と考えるのは誤りです。休業中の就業は本人の合意を前提とした例外であり、復職後の配置が不利益な取扱いに当たるかどうかは、前述の「2.「不利益な取扱い」はどう判断されるのか」とおりの基準で判断されます。
5.トラブルを防ぐ復職対応の3ステップ
ステップ1:早めの意向聴取と、原職復帰を基本とした検討
2025年10月から、妊娠・出産等の申出時と子が3歳になる前の意向聴取・配慮が義務となりました。
法律が定める時期とは別に、実務上は復職前にも面談を行い、勤務時間帯や勤務地、業務量の希望を確認しておくと、配置の検討がスムーズになります。そのうえで、まず原職または原職相当職への復帰を検討します。
なお、意向に必ず沿わなければならないわけではありません。ただし厚生労働省のQ&Aでは、意向に沿った対応が難しい場合には、その理由を説明するなど丁寧な対応が重要とされています。
ステップ2:原職に戻せない場合は、理由と影響を書面で説明する
組織変更などで原職に戻せない場合は、業務上の必要性、新しい配置の内容、賃金・手当や役職、将来のキャリアへの影響を書面で具体的に説明します。
アメックス事件のように、組織変更自体に理由があっても、復職後の配置が不利益と判断されることがあります。
「なぜこのポジションなのか」を、他の社員の通常の人事異動と同じルールで説明できるかを確認してください。
また、勤務地の変更を伴う配置転換で、子の養育が困難になる労働者がいる場合は、その状況に配慮しなければなりません。
ステップ3:同意は「形」でなく「中身」を整える
同意書に署名をもらうだけでは十分とはいえず、有利な影響が不利な影響を上回り、適切な説明がされたうえでの同意であることが求められます。
説明は書面などで分かりやすく行い、本人がその場で即答を迫られないよう、検討の時間を設けることも大切です。
手当が減るなどの不利益が生じる場合は、その緩和策や今後のキャリアの道筋もあわせて示し、面談の経過を記録しておきましょう。
ただし、緩和策を示せば必ず適法になるというものではなく、配置そのものの必要性と不利益の程度をあわせて検討することが前提です。
配転を決める前のセルフチェック
原職または原職相当職に戻せない理由を、具体的な業務上の事情として説明できるか
新しい配置で、賃金・手当・役職・部下の有無・業務内容がどう変わるかを整理したか
育休を取得していない社員が同じ状況にあっても、同じルールで同じ配置をするといえるか
本人の意向を聴き、沿えない部分があればその理由を伝えたか
説明した内容と本人の意見を、日付入りで記録に残したか
一つでも「いいえ」があれば、配転を決める前に立ち止まって見直すことをおすすめします。
6.おわりに
育休復帰時の配転では、法改正への対応、就業規則・育児介護休業規程の整備、意向聴取の進め方、説明書面の作成など、検討すべきことが多岐にわたります。
紛争になってからでは、時間も費用もかかり、職場の信頼関係にも影響します。
当事務所は、規程の整備から復職面談の準備、配置を検討する段階での助言まで、日常的にご相談いただける立場でトラブルの予防をお手伝いします。
問題が起きる前の「この段階」で相談できることが、顧問契約の大きなメリットです。
「この配置転換は大丈夫だろうか」と少しでも不安に思われたら、お気軽に当事務所へご相談ください。貴社の円滑な組織運営と、社員の皆様のキャリアの両立を、誠実にサポートいたします。
キーワード 育休復帰 配置転換
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